積ん読・濫読感想文
片っ端から読んだ本の感想の個人的メモ書きと、思いつきの雑記。本の種類は系統立ってもないし、感想の整合性も気にしない、読んだ順番でもない。
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中国対外行動の源泉
慶應義塾大学東アジア研究所 現代中国研究シリーズ。著者は慶應義塾大学総合政策学部教授、現代中国研究センター副センター長. 慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス教員の加茂具樹氏。

中国は、自らが歩む外交路線を「特色ある大国外交」と定義し、大国という意識を対外行動のなかで明確に表すようになってきた。日本はそうした中国の新しい変化に極めて間近な距離で向き合っている。

本書は、大きく変化してきた中国の対外行動について、それを形作っている国際政治的要因と国内政治的要因という構造的レベルに腑分けし、その源泉を見出そうとするものである。

中国の強硬な対外行動を解釈する幾つかの仮説を整理している、第一章の『中国の対外行動「強硬化」の分析』(松田康博氏による)が基調講演的なもので、しかも一番面白い。

1. 反応仮説:中国が見せる強硬な行動とは、相手国の行動に対する反応であるという理論。日本政府などは伝統的にこれを信じ込まされてきたが、中国政府の公式見解に近く、最も嘘っぽい。この傍流の「反応的強硬さ」という仮説では解釈が全く異なり、相手のミス的な挑発行動に乗じて中国の数倍の報復行動を正当化して堂々と現状変更を押し進めるというもの(これはかなり正しそう)。
2. 陽動戦争仮説(スケープゴート理論):国内の問題から国民の注意を反らすため、わざと対外的な緊張を作り上げるという理論。これも一部は正しい感じがするがすべてではない。むしろ反中国的な連中がこれを信奉してくれることを中国政府は喜ぼう。さらに筆者はこれに関連し、独自の「戦略的ライバルの再定義仮説」というユニークな説(中国の政権が必要に応じて特定の国・地域を戦略的な競争相手として定義し直す)を持ち出している。
3. 失地回復主義仮説(拡張主義仮説):中国の主観による歴史的領土のうち失地を取り戻すために中国が突き動かされているという理論。これが最も中国政府の行動原理を表しているというのが実感だ。現に、代表的論者である平松茂雄氏は1980年代後半以降の中国政府の行動を予測的中させている。この仮説に基づけば、中国にとって重要なのは「行動のきっかけ」よりも準備に必要な法制度等の整備と自らの能力向上なので、へたに中国に猶予を与えては、かえって事態は悪化するということだ。
4. 「ばらばらな権威主義体制」仮説(ばらばら仮説):中国の対外行動は、多くの異なる利益集団に細分化され、中国の核心的利益を絶対に守るべきだという強い意見があることで揺れ動きながら決まっているという理論。これはこれで一面の真実だろう。

これに「代理人問題(執行の権限を委任された組織の代理人が、命令の執行において手を抜いたり機会主義的行動をとる)」があるために、余計に問題をややこしくしている(本質を見えにくくしている)ということも事実だろう。

いずれにせよ一つの仮説だけで全ての場合を説明できるほど中国はシンプルな国でも体制でもない。

「失地回復主義」の意思が中央政府の根本的底辺にあり、場合によって中国政府が「スケープゴート」を仕立てようと考えたり、地方政府や軍、もしくは民衆の一部が自らの利益を追求して勝手な動きを行ったりし、国としても日本などを非難するが、それが袋小路に陥ると、「あれは相手国の行動に対し反応しただけで、侵略などの意図はない。悪いのは外国だ」と言い訳するという複合的な状況が最もありそうな話ではないか。



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象と耳鳴り
本屋大賞や直木賞などの受賞小説家、恩田陸の作品。

「六番目の小夜子」に登場した関根秋の父、元判事の関根多佳雄が主人公の謎解きミステリー短編集で、初期ながら作品としての完成度は高い。

全体的に淡々としていて、大きな事件が起きるというよりも(一部の例外が「待合室の冒険」)日常的な風景の中で過去の事件や出来事を引退した判事やその家族の視点で描くパターンが多く、謎そのものや謎解き自体は奥が深い。

関根秋はまったく登場しないが、兄で検事の春(しゅん?)、姉(?)で弁護士の夏が幾つかの作品に登場して謎解きの主役となることもあり、司法一家揃ってミステリー好きという楽しい構成。

【曜変天目の夜】
曜変天目茶碗を美術館へ見に行った際、自殺した友人のことを思い出す。
【新・D坂の殺人事件】
雑誌ライター風の謎の男が、ビルを見上げる老人(関根多佳雄)に何を見ているのか尋ねると「堕天使を」。すると急に男が倒れて亡くなる。
【給水塔】
前作の謎の男・時枝満と多佳雄が時々会う散歩仲間になっていて、満が「人食い給水塔」へ連れて行き、都市伝説的な話をする。
【象と耳鳴り】
喫茶店で老婦人が「象を見ると耳鳴りがする」と語り始める。一番不可思議な作品。
【海にゐるのは人魚ではない】
長男の春と伊東に住む元実業家の家へ行く途中、「海にいるのは人魚じゃない」という子供の会話を耳にする。一家心中の事件と結び付けての二人の推理が面白い。
【ニューメキシコの月】
入院している多佳雄の見舞いに来た東京地検の貝谷毅がニューメキシコの月の写真の絵葉書を見せる。九人の男女を殺して床下に埋めた医師・室伏信夫から届いたと言う。
【誰かに聞いた話】
妻・桃子と夕食時に、誰かに聞いた話だか思い出せないと多佳雄が話す。
【廃園】
従兄弟の結子が亡くなり、娘の結花に招待され、かつて結子が愛した薔薇の庭があった屋敷を訪れる。あの時何があったのかが見えてくる。
【待合室の冒険】
春と出かける途中電車が止まり、待合室で足止めをくう。男が携帯で話しているのを聞いた春の思いがけない行動。この作品が一番スリリング。
【机上の論理】
春と夏が従兄弟で医師の隆一と食事。隆一から一枚の部屋の写真を見せられ、この部屋の人物像を当てられたらおごると言われる。ユーモアを感じる作品。
【往復書簡】
新聞記者になったばかりの姪っ子からの手紙をきっかけに始まるやりとりの中で、多佳雄が気になった放火事件。そして突然の事件解決と意外な犯人。その裏には多佳雄の鮮やかな謎解きがあった。
【魔術師】
地方自治がテーマらしいが(舞台は仙台市と旧泉市)、最もミステリアスな趣きがある。



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新しいニッポンの業界地図 みんなが知らない超優良企業
東洋経済新報社のメディア編集委員、田宮寛之氏の著書。

30年近く業界・企業を取材してきたプロの眼から、これから伸びていく企業約250社を挙げている。無名な高収益企業、無名な高シェア企業、無名な高技術企業も多く含まれ、ビジネスチャンスの開拓や投資家の銘柄選びに、もしくは学生の就職活動に役立つとアピールしている。

とはいえ、半分ほどはそれほど無名の企業というほどでもない(大企業が多く、「みんなが知らない」というタイトルは正直、誇張がある)。それでも中堅企業なのに世界的に活躍している企業も少なくないことが感じられ、大企業だけがグローバル展開しているのではないこと、日本には優秀な企業が多いことを実感できるのは嬉しい。




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インシテミル
最近とみに人気となっているミステリー作家、米澤穂信の作品。映画化もされた。

主人公は大学生の結城理久彦。求人雑誌で見つけた奇妙なバイト広告:1週間の人文科学実験の参加者を募集。時給はなんと11万2000円。誤植かと思いつつも彼は応募してみる。バイト先の「暗鬼館」という名前の地下施設に集まったのは男女12人。そこで明かされたバイト内容と報酬のルールは奇妙で、要は閉鎖空間における殺人およびその犯人探しゲームだった。 不可思議な殺害事件の犠牲者は増え、ゲーム参加者たちは互いを疑心暗鬼の目で見つめる…。

映画の評判が散々だったので読むのは躊躇っていたが、一旦読んでみると意外と面白い。さすが人気作家。

本作は、フーダニット(犯人当て)に重点が置かれており、トリックはほとんどないに等しい(正確には、最初の犠牲者についてはちょっとひねりがある)。それでもなかなか楽しめる。

ただ幾つか難点はある。「十戒」を含めルールが多すぎて覚えきれない。閉鎖空間ながら登場人物が12人(主人公はさすがに外しても残り11人)もいるうえに、共犯関係を捨てられないため、そう簡単には犯人を絞り込めない。それぞれに割り当てられた武器が最後まで分からないのと、クラブ側が能動的に殺害していないという保証がないため、考え得る可能性が多すぎる。文章は読みやすいが、途中から謎解きは面倒くさくなってしまった。



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三月は深き紅の淵を
直木賞作家、恩田陸の作品。同題の作中小説「三月は深き紅の淵を」で緩く繋がれた、四つの短編からなる連作集。そしてその小説は決して中身が明かされることはないまま終わる。

第一章「待っている人」は、大量の書物がある富豪の邸宅に呼ばれた若き会社員が、人を食ったような4人の老人に不思議な謎かけを受け、幻の小説「三月〜」を捜し出そうとする。「柘榴の実」というダイイングメッセージがキーワード。

第二章「出雲夜想曲」は、「三月〜」の作者探しの旅に出た二人の女性編集者の話。言い出しっぺの若いほうの編集者には偶然見つけたある手掛かりがあり、その相手が住んでいたはずの自宅にまで辿り着くが…。

第三章「虹と雲と鳥と」は、異母姉妹だった二人の女子高生が転落死した事件の真相を、一方の最後のメッセージを受け取った元家庭教師が二人の元彼氏と共に解明しようとする。「三月〜」らしき小説が書かれる動機が明らかになる。

以上三章に出てくる「三月〜」は、それぞれ別物としか思えない。

最終章である第四章「回転木馬」はどうやら前三章の「枠」に相当し、小説「三月は深き紅の淵を」の作者の思考パート(回転木馬をモチーフにした小説の書き出し部分について思い悩む、恩田陸自身を投影した人物による一人称の語り)と、少女マンガや怪奇小説っぽい不可思議な学園物語のパートが交互に配されている。

本書の四つの章は、第一章で言及される「三月〜」の各四部に対応し、最終的には第四章の結末が「三月〜」の第一部「風と茶の幻想――風の話」に繋がっていく構成になっている。つまり第四章のタイトル通り、回転木馬のごとく物語は循環させようという意図が見えるのだが、(わざとだろうが)完成形にはなっていない。そして作中作による「入れ子構造」の内と外の境目も次第に曖昧となっている。

端的に言って、第一章~第三章は非常に魅力ある連作小説だが、第四章はすべてが中途半端なままに終わっている(元文学少女のほぼ駄作に近い)。若手のデビュー作としては水準以上の技量を見せるのに成功しているが、恩田陸という小説家の作品としては妙な味わいはあるが実験作程度に終わっており、これもまた作中小説「三月は深き紅の淵を」の評価の通りなのである(したがって意図通り?)。



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